[解説]ITサービスマネージャ試験 2021年(令和3年)春期 午後1 問1  テーマ:供給者管理

[解説]ITサービスマネージャ試験 2021年(令和3年)春期 午後1 問1  テーマ:供給者管理
目次

テーマ:供給者管理

出典:令和3年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後1 問1

SLAの設定、サービスレベル目標に対する達成状況の確認、外部供給者との調整を通じて、サービスレベル管理の実務能力を問う問題です。

問題文のあらすじ

K社の情シスが社内用の資料検索システムを導入する。
新検索システムはアプリ、インフラ、サービスデスクをそれぞれ別の会社に外部委託する。
複数の供給者のSLAが、新検索システムのユーザーである社内関係者と情シス間のSLAを守れるレベルかを意識して契約したり、運用中に利用者へのSLAが守れない事態が発生したときの問題切り分けと供給者間のコミュケーション方法を検討する。

問題文の構成

  • 冒頭序文
  • [新規システムの開発]
  • [検索サービスの開始]
  • [検索サービスで発生したインシデント]
  • [応答時間の実績の集計]
  • [検索サービスの改善]

冒頭序文

  • 医薬品メーカーK社の情シス部は、社内システムの開発、保守、運用、サービスマネジメントをしている。
  • 社内システムの一つである「研究開発管理サービス」のサービスデスクをL社に外注している。
  • L社のサービスデスク機能が図1で示されている。

[新規システムの開発]

  • 研究開発管理サービスの1つとして、新たに論文検索システムを開発した。
  • 検索サーバ2台、データベースサーバ1台、負荷分散装置(LB)1台の構成。
  • 平日8時~22時まで稼働
  • LBはM社、アプリ(AP)はN社が担当

[検索サービスの開始]

  • 検索システムを「検索サービス」として提供する
  • サービスデスクはL社、機器の管理をM社、APの管理をN社に外部委託
  • 研究部からの検索サービスに対する要求事項(本文中)
  • ITサービスマネージャP氏が各サプライヤとの契約を検討(表1)
  • 同時に、利用者である研究部と情シス部の間のサービスレベル項目とサービスレベル目標を検討(表2)
  • フォーラムを開催してサプライヤ各社との情報交換及び討議を計画

研究部の要求事項(本文中)

サプライヤ各所の契約事項(表1)

研究部と情シスの間のSLA(表2)

[検索サービスで発生したインシデント]

  • サービス開始から3カ月後の10月1日の話
  • 利用者から「検索結果が表示されるまで時間を要する」という問い合わせ
  • ノウハウデータベースでは「しばらく待ってから再検索」
  • でも、その後20分の間で10件同じ問合せ発生
  • 最初の通報から20分経って、サービスデスクが情シスへメール。
  • 情シスでもわからないのでM社とN社に解析を依頼
  • LBの動作不良と判明
  • 回避策はLB再起動
  • 回避策実施して問題が解消するまで通報から1時間45分だった
  • 暫定対応はLB再起動
  • 恒久的対応はLBのファーム改修。ファームの改修とファーム更新が終わるまで3カ月

[応答時間の実績の集計]

  • インシデントのあった10月の応答時間実績集計

10月の応答時間の実績(表3)

[検索サービスの改善]

  • フォーラムを開催して、今回のインシデントについて話し合いをした。
  • ファーム改修版の適用まで3カ月あるので、その間の対応を協議
  • 「インシデントモデル」を決めて、情シスとサプライヤ間で共有することにした。
  • 役割、インシデントプロセスの活動、エスカレーション手順、定義した時間内のインシデント解決をまとめたもの

検索サービス改善案(表4)

設問1 [検索サービスの開始]について

設問1 問題文

[検索サービスの開始]について、本文中の下線(ア)で、M社の契約事項の案を調整する理由は何か?40字以内で答えよ。

設問1 解答例

2時間以内に利用可能な状態にするという要求事項を満たさない恐れがあるから

設問1 ポイント解説

下線(ア)は「システム構成機器の部品交換に関する契約事項の案について調整」です。
表1のM社の契約事項の案を見てみます。

1つ目は「インシデントの解決依頼を平日8時から22時まで受け付け翌営業日の17時までに回答、解決する」
2つ目は「部品交換は平日8時から22時まで行うものの、18時以降に判明した部品交換は翌日

というものです。

研究部の要求事項と照らし合わせてみます。
要求事項:問い合わせの回答は、翌営業日の18時までにしてほしい。
M社の契約:「翌営業日の17時までに回答、解決」
1つ目の契約事項はOKですね。

要求事項:検索サービスを利用できない障害が発生した場合、2時間以内で検索サービスを利用可能な状態にしてほしい
M社の契約:「交換は22時まで行うが、18時以降に発生した部品交換は翌営業日
これは、研究部の要求「平日8時から22時まで利用する」ということを考えると、18時以降に発生したサービス停止障害で部品交換が必要案場合に「2時間以内で利用可能にする」ことができなくなります。

問題文は「契約事項の案を調整する理由」を聞かれています。
契約事項をどのように変更するか、ではなく、「なぜ調整するのか」である点は注意が必要です。

なぜ調整するのかといえば、「18時以降に部品交換が必要と発覚したときに2時間以内復旧は不可能になるから」ですね。

設問2 [検索サービスで発生したインシデント]について

設問2 問題文

[検索サービスで発生したインシデント]について、本文中の下線(イ)でサプライヤ各社に通知している。
サプライヤ各社以外に通知すべき相手と通知すべき内容を40字以内で述べよ。

設問2 解答例

サービス利用者にインシデントの内容、サービス停止予定時刻及び回復時刻を通知する。

設問2 ポイント解説

この問題は、問題本文中や図表から拾う問題というよりは、サービスマネジメントやサービスオペレーションにおける情報共有の基本的な意識と知識を問うものだと思います。

「システムの応答時間が長い」という問い合わせをしてきている利用者には、まず状況をお伝えして不満や不安を払拭するのが原則ですよね。

そして、問題解消のためにサービス停止があることを伝えて、いつ止まっていつから使えるのかを事前にしっかりアナウンスすることが重要というのは肌感覚的にわかることかと思います。

ということで、素直にそのまま回答すればOKな問題だと思います。

むしろ「サプライヤ間での話し合いだけでシステム停止」ってめちゃくちゃ違和感ありますよね。
開発環境じゃないんだし、稼働環境でユーザー無視して停止するっていうのは、次の日から社会人離脱するつもりの人か、怖い目にあったことがないド新人のいずれかです。

設問3 [検索サービスで発生したインシデント]について

設問3 問題文

[検索サービスで発生したインシデント]について、表3から90パーセンタイル値に該当する応答時間は何秒か。

また、10月の応答時間に関するサービスレベル目標値は、達成、未達のどちらか。
答案用紙の達成・未達成のいずれかを〇で囲んで示せ。

設問3 解答例

達成・未達成:達成
応答時間:2.4秒

設問3 ポイント解説

90パーセンタイル値という値の計算方法について、私は全然知らなかったのでこの問題を理解するのに大変苦労しました。

実際のところ、この問題の解き方がわからなくてググってみたけど、午後1の解説サイトが全然見つからなかったことが、私自身で解説ページを作るきっかけになりました。

この問題で「パーセンタイル値ってどういう考え方???」ってなって、このページにたどり着いた方がいらっしゃったら、私としては本当にうれしいです。

前置きはさておき、1つずつ整理してきたいと思います。

パーセンタイル値の考え方

パーセンタイル値ですが、これは、ある値のリスト(データセット)があったとして、パーセンタイルに指定された割合に達するときのリストの値といえます。

パーセンタイル=該当のリスト値群が占める割合
パーセンタイル値=該当のリスト値群が占める割合となる境界にあるリスト値。

という理解です。

これだけだとイメージが全然わかないと思いますので、問題の前提条件を整理しつつ、実際にパーセンタイル値にたどり着くステップを記載します。

問題文の前提条件

表2の④に「検索サービスの応答時間」に関するサービスレベル目標として「5秒以内(90パーセンタイル値)」とあります。
同じく表2の注釈に以下の説明があります。

『パーセンタイル値とは、当該付きの応答時間の累積分布において、応答時間がある数値以下に含まれる百分率のこと。
例えば、90パーセンタイル値とは、件数結果が100件存在した場合、応答時間を早いものから順に並べた時に90番目に該当する値のこと。』

全体の検索件数にパーセンタイルのパーセントをかけて出てきた件数目応答時間、ってことです。

設問に設定されている検索件数と応答時間

10月の検索合計数は5000件とのことです。
表3は「応答時間」と「検索件数」の組み合わせで、「応答時間の早いものから順」に左から右に並んでいます。

「90パーセンタイル値とは・・100件存在した場合・・早いものから順に並べた時に90番目」の法則で、考えます。
10月の検索合計数は5000件なので、5000の90%ということ。
5000件存在した場合、早いものからなべて4500番目」ということになります。

表の件数を左から順に累計していき、4500件を超えるときの応答時間が、応答時間の90パーセンタイル値であるという考え方です。

計算

検索件数を応答時間の早い順に足しこんでいって、4500を超える点を探します。

500+750+1000+1000+750+550=4550

左から6つ目、件数が550で応答時間が2.4秒のところで検索数合計が4500を越えました。
早いものから並べて検索件数の90パーセントを含む応答時間=90パーセンタイル値は2.4秒である、となります。

達成/未達成

サービスレベル目標は「5秒以内」ですので、2.4秒は「達成」となります。

設問4 [検索サービスの改善]について

設問4 (1) 問題文

サービス提供者がサービスレベル目標を達成するために、インシデントモデルを整備しておくことで得られるサービス提供者にとっての利点を40字以内で述べよ

設問4 (1) 解答例

事前に定義した時間内でインシデントの解決を図ることができる。

設問4 (1) ポイント解説

「インシデントモデル」の一般的なメリットを問われている問題です。
また、問題文にも「定義した時間内にインシデントの快活を測ることを目標にすることとした」と記載があります。

午前2の問題にもインシデントモデルとは?みたいなのが出てきます。

午前2の問題例

問題:ITILのインシデント管理の方針において、インシデントモデルを定義しておくことによって得られるメリットはどれか?
(引用:平成25年  ITサービスマネージャ試験 午前Ⅱ 問8)

解答:繰り返し発生するインシデントを、事前に定義した経路で、事前に定義した期間内に処理することができる。

設問4 (2) 問題文

表4の[a]には、[検索サービスで発生したインシデント]の事例の教訓から、サービスの早期回復に向けて、サービスデスクで行う内容が入る。
適切な内容を35字以内で述べよ。

設問4 (2) 解答例

インシデントと判断して情報システム部へ電子メールで連絡を行う。

設問4 (2) ポイント解説

直前の問題文に「10分間で3件以上応答遅延の問合せが発生する場合は、LBの動作が不安定と判断できる」とM社が見解を示しています。

これを受けた形で、サービスデスクであるL社は、この状況になったら、LBの動作が不安定ということです。

LBの動作が不安定検索応答の時間がサービスレベル目標を達成できなくなるインシデントである、という判断をしてイベント管理プロセスに入らなければいけません。

設問4 (3) 問題文

P氏は、本文中の下線(ウ)で、フォーラムの開催が有効と判断した。P氏は、フォーラムをどのような場として有効活用することにしたのか。30字以内で答えよ。

設問4 (3) 解答例

サプライヤ各社が協調して活動を決定できる場

設問4 (3) ポイント解説

設問がなんとなくボヤっとした、つかみどころのない内容に感じますが、
おそらく出題者が言いたいことは「複数の供給者がいる場合、1か所がハブになることでかえって情報共有や検討協議を非効率にすることがある」
ということだと理解して、解答例を眺めてみます。

「サプライヤ各社のコミュニケーションの方法として、検索サービスに関する変更情報の共有、情報システム部と研究部とのサービスレベル報告会議の議事録の送付、及び情報交換と登録を行う会議」
としています。

問題文からキーワードを抜粋するというよりは、問題文から一般論としての解答を記載する問題と言えそうです。

以上